日経新聞インタビュー「戦争が起こすもたらす環境破壊」

世界では依然として戦争が絶えず、米国・イスラエルとイランの戦争が終結交渉に向かう一方、ウクライナやアフリカでは紛争が続いている。戦争は人命を奪い、住民を故郷から追い立てるだけでなく、甚大な環境破壊を引き起こす。国連環境計画(UNEP)のインガー・アンダーセン事務局長と、松下は、戦争が地球環境に与える深刻な影響と、国際社会が取り組むべき課題について警鐘を鳴らした。
松下和夫 2026.06.30
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2026年6月29日の日経新聞朝刊9面に「戦争が起こすもたらす環境破壊」というテーマで国連環境計画(UNEP)インガー・アンダーセン事務局長と松下へのインタビュー記事が掲載された。

以下はその要約である。

世界では依然として戦争が絶えず、米国・イスラエルとイランの戦争が終結交渉に向かう一方、ウクライナやアフリカでは紛争が続いている。戦争は人命を奪い、住民を故郷から追い立てるだけでなく、甚大な環境破壊を引き起こす。国連環境計画(UNEP)のインガー・アンダーセン事務局長と、松下は、戦争が地球環境に与える深刻な影響と、国際社会が取り組むべき課題について警鐘を鳴らした。

■ UNEPアンダーセン氏:戦争は「三重の地球危機」を加速させる

アンダーセン氏は、世界が直面する「気候変動・生物多様性の喪失・汚染」という三つの環境危機は互いに関連し合い、複合的な悪化をもたらしていると指摘する。米国・イスラエルとイランの戦争でも、この三重危機が進行したと述べる。

戦争が始まれば、銃声が止んだ後も環境への影響は長く続く。石油・ガス施設、水道・下水道などのインフラ破壊は、化学物質や重金属の流出を招き、土壌・水質・大気を汚染する。1991年の湾岸戦争では、攻撃を受けた油田が約1年燃え続け、発生したブラックカーボンがチベット高原まで飛散した。局地的な戦争が地球規模の汚染を引き起こす典型例である。

ペルシャ湾岸地域は水資源が乏しく、地表の破壊は地下水にも影響する。さらに湾内には海水淡水化施設が多数あり、石油施設が破壊されれば油が流入し、淡水化機能が損なわれる。湾岸には手つかずの海岸線や保護区が広がり、固有種も多いが、戦争によってすでに生態系が傷つけられている。

ホルムズ海峡の封鎖は世界経済に混乱をもたらし、化石燃料依存の脆弱性を露呈した。日本は石炭依存度が約3割と高く、石油・ガス供給が不安定になると石炭回帰の傾向があることをアンダーセン氏は懸念する。

● AI普及がもたらす新たな環境負荷

アンダーセン氏は、人工知能(AI)の普及が環境に二面性を持つと指摘する。AIはメタン漏れの検知や生物多様性の監視など環境保護に役立つ一方、データセンターは膨大な電力・水・重要鉱物を消費する。AIの急速な普及は電力需要を押し上げ、再生可能エネルギー拡大の必要性を一層高める。

アフリカの太陽光資源を活用したグリーン水素や、地熱・水力が豊富なアイスランドなど、データセンターの立地を再エネと結びつける構想も示した。再生可能エネルギーはすでに化石燃料より安価になりつつあり、世界の投資も再エネにシフトしている。循環型経済への移行も不可欠で、日本のトヨタグループによる工場用水の循環利用などは先進的な取り組みとして評価される。

■ 松下:戦争は巨大な温室効果ガス排出源であり、復興も環境負荷を増大させる

松下は、現代の戦争が大気・水・土壌の汚染を引き起こし、復興には長い時間と膨大な環境負荷が伴うと指摘する。ウクライナ侵略では、原子力発電所が攻撃対象となり、破壊されれば放射性物質が欧州全域に拡散する危険がある。

軍事活動は大量の温室効果ガスを排出する。戦車・戦闘機の燃料消費、砲撃・爆撃、燃料施設の火災、森林火災などが排出量を押し上げる。破壊された都市を再建するためのセメント・鉄鋼の大量使用や、民間航空機が戦闘地域を迂回することによる燃料増加も影響する。

ウクライナ政府はスウェーデンの支援を受け、侵略による温室効果ガス排出量を推計した。2022年2月以降の排出量はCO₂換算で3億1140万トンに達し、フランスの年間排出量に匹敵する。被害額は570億ドルに上り、ウクライナはロシアに賠償を求める方針を示している。

ガザ地区でも、軍事活動による排出量は約190万トン、復興を含めると3220万トン以上と推計され、100カ国以上の年間排出量を上回る。破壊された建物からはアスベストや重金属が拡散し、浄水場や電力網の破壊により住民は汚染水やディーゼル発電に頼らざるを得ず、健康被害と汚染が深刻化している。

● 軍事部門の排出は世界の5.5%:パリ協定に組み込むべき

松下は、軍事部門が世界の温室効果ガス排出の約5.5%を占め、航空業や海運業の合計と同程度であるにもかかわらず、パリ協定の排出報告対象外であることを問題視する。軍事活動・戦争由来の排出を国際枠組みに組み込み、各国に報告を義務づけるべきだと主張する。

戦争を防ぐことは排出削減につながり、人間社会と生態系を守る「気候政策」でもある。戦争による環境破壊を「エコサイド」と呼び、国際司法の場で責任追及する新たな罪の創設も提案する。

さらに、気候変動による食料・水・移動の不安定化が安全保障問題となることを踏まえ、紛争予防や平和構築を気候変動対策(適応・緩和)と一体で設計する必要性を強調する。軍事基地の再エネ化など軍事部門の排出削減も進めるべきだと述べる。

ウクライナやガザの復興についても、化石燃料依存を避け、再エネ・省エネ・分散型エネルギーを中心とした「グリーン復興」を提案する。ウクライナはすでにそのビジョンを掲げ、EUと日本が支援を進める予定だ。

■ 聞き手のまとめ:戦争は「正義」を超えて地球環境を破壊する

聞き手は、松下の「国破れて山河ありの時代ではない」という言葉を引用し、現代の戦争は地域だけでなく地球規模の環境破壊をもたらすと強調する。AIが軍事分野に浸透する中で戦争が起きれば、AI関連の電力消費も増え、温暖化ガス排出がさらに加速する。

ロシアはウクライナ侵略でエネルギー施設を執拗に攻撃し、ウクライナはその排出増を非難してきた。しかしウクライナ自身もロシアの石油施設を攻撃しており、環境面では自らの主張を覆す行為となる。

米国とイランの戦争でも双方が「正義」を掲げたが、地球温暖化は正義・不正義を区別せず進行する。戦争を実行することの罪はますます重くなる。世界は、戦争が環境・気候危機を悪化させるという事実を自覚し、戦争を早期に止めることが地球の気候システムを守るために不可欠だと結論づけている。

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