ケニアで爆発的に普及する
電動バイク

ケニアでは再生可能エネルギーの拡大に続き、電動バイクの普及が都市交通を大きく変えつつあります。燃料高騰や政府支援、民間投資が重なり、ナイロビでは電動二輪が道路の半数を占める勢いです。急成長の背景と課題から、電動モビリティが生活コストと産業機会を同時に押し上げる新たな潮流が見えてきます。
松下和夫 2026.08.04
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前号ではケニアで地熱発電を中心として再生可能エネルギーが発電の過半を占めていることを紹介しましたが、それに加えて、電動バイク(e-モーターサイクル)が爆発的に普及しています。 ケニアでは従来バイクがタクシーや配送用として広く使われています。そのような中で都市部では既に「電動バイクが当たり前」という景色が生まれつつあり、特にナイロビでは電動二輪が道路上の半数を占めるとの報告もあります。 普及台数は2020年の50台未満から24年には約5000台へ急増し、25年には総販売台数に占める電動バイクが15%を超え、26年にかけてさらに加速しています。背景には燃料価格の高騰、政策的な支援、民間での投資、そしてバッテリー交換インフラの整備が複合的に作用しています。

ケニアで電動バイクが急速に普及する背景

 ケニアの電動バイク普及に直接的に寄与したのは、燃料価格の急騰です。中東情勢の悪化に伴う原油価格上昇により、ガソリン価格が20%以上上昇。これにより、バイクタクシー(“boda boda”と呼ばれます)や配送ライダーの経済負担が急増し、電動化の経済メリットが一気に顕在化しました。 実際、配送ライダーは電動バイクに乗り換えることで大幅な経費の節約が可能になったとの証言があります。 次に、ケニア政府が電動二輪の普及を国家戦略として位置づけ、税制優遇や規制整備を進めていることもあげられます。政府は、電動バイクの物品税を20%から10%へ引き下げ、付加価値税(VAT)を免除しました。さらに完成車ではなく部品を輸入して国内組立する「CKD方式」への優遇、2030年までに公共充電ステーション1万基設置を目標とする、などの積極的な政策的優遇策を導入しています。 これらの政策により、電動バイクとガソリンバイクの価格差が縮まり、国内市場への参入企業も増加しました。 現在ケニアはアフリカのeモビリティ・ハブとして注目され、国際機関や民間投資家が積極的に資金を投入しています。 例えば、Roam、Ampersand、Spiroが大規模な組立工場を建設し、2026年までに年間10万台規模の製造能力が整う見込みです。また、バッテリー交換ネットワークを構築する企業が急増しています。 特にAmpersandは、数分で交換可能なバッテリー・スワップ方式を普及させ、ライダーの「稼働時間の最大化」というニーズに応えています。これは電動化の最大の障壁である「充電時間の長さ」を解消し、普及を一気に後押ししました。 ケニアには200万台以上のバイクタクシーが存在し、都市交通と物流の基盤となっています。この巨大な市場は、電動化の「即効性のあるターゲット」として機能しました。 これらの車両は、毎日長距離を走るため電動化による燃料費削減効果が大きく、またバッテリー交換ステーションとの親和性が高く、事業者向けのリース・レンタルモデルが普及しやすい環境にありました。この「使えば使うほど得をする」構造が、電動化の経済合理性を明確にしたのです。

電動バイクの政策的メリットと急成長の裏で残る構造的問題

 このようにケニアでは電動バイクが急成長していますが、いくつかの構造的課題も指摘されています。 その一つは、サプライチェーンの脆弱性です。多くのメーカーが中国・インドからの部品輸入に依存しており、国内の部品産業は未成熟です。現状のままでは「低付加価値の組立産業」に留まり、産業発展の果実が限定される可能性があります。 また、インフラ整備に地域格差が存在しています。ナイロビではバッテリー交換ステーションが整備されつつありますが、地方では土地取得や許認可の遅れが障壁となり依然として不足しています。 さらに税制優遇により価格差は縮まったものの、初期費用は依然としてガソリン車より高い場合が多いのです。そのため、分割払いやリースモデルが普及の鍵となっています。 先月号でも紹介したように、ケニアの電力は約90%が再生可能エネルギー(地熱・水力・風力・太陽光)で構成されており、アフリカでも突出しています。 そのため、電動バイクは燃料費削減だけでなく、エネルギー安全保障の強化にも寄与します。輸入燃料への依存度が高い国にとって、これは大きな政策的メリットです。 ケニアの電動バイクの普及は、ガソリン燃料価格の上昇、政策的支援、民間投資の拡大、巨大な商用需要、インフラ整備、豊富な再エネ電力 という複数の要因が同時に作用した結果であるといえます。特に、経済合理性の明確化、バッテリー交換インフラの整備、商用セクターの先行電動化は、他国にも応用可能な普遍的な教訓であるといえます。 ケニアの事例は、電動モビリティの普及が「環境政策」のみではなく、「生活コストの改善」と「産業機会の創出」によって加速することを示しています。

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