サンタマルタ会議(化石燃料からの移行に関する第1回国際会議)はどのような会議だったのか、その意義と展望を考える
アメリカ・イスラエルのイラン攻撃を契機とした世界的なエネルギー危機の渦中の2026年4月24日から29日まで、コロンビアのサンタマルタで、「化石燃料からの脱却に関する第1回国際会議」が開催された。
この会議は、コロンビアとオランダの共催によって開催され、化石燃料の生産そのものに初めて焦点を当てた国際会議であった。化石燃料からの移行に前向きな57カ国及びEUが参加し、アメリカと日本を除くG7諸国も参加した。これらの参加国は世界全体のGDPの3分の1を占める。
ちなみに、4月24日には国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長が、英ガーディアン紙のインタビューで、「イランでの戦争によって化石燃料産業は修復不可能なほどに破壊された。石油とガスの供給途絶とそれに伴う価格高騰は、各国を化石燃料からより安全な再生可能エネルギー源へと永久に転換させるだろう」と語ったという。世界ではこのエネルギー危機をきっかけに、省エネの強化、電気自動車(EV)の販売急増、化石燃料からの脱却の傾向が見られる。ところが日本ではガソリン補助金の継続などによって石油依存が固定され、エネルギー安全保障と気候危機に向けた根本的対策となる化石燃料からの脱却の方向は示されていない。
環境問題の正攻法は原因の根源に立ち向かうことである。例えばオゾン層の破壊問題では、オゾン層を破壊する物質であるフロン類の生産・使用を禁止したことによってオゾン層が回復している。気候変動問題ではその原因となる温室効果ガス、とりわけ原因の大宗を占めるCO2排出のもととなる化石燃料からの脱却が肝心である。ところがこれまでの国連気候変動枠組条約締約国会議(UNFCCC/COP)では、化石燃料の段階的廃止という最も根本的な課題については、産油国の反対や利害の衝突により、議論することすら困難な状況が続いてきた。やっと2023年のCOP28で「化石燃料からの脱却を加速させる」と合意されたが、その後の進展ははかばかしくなかった。2025年のCOP30では、議長国ブラジルが脱化石燃料の工程表作成を目指したが、産油国などの抵抗で見送られた。今回の会議は従来の枠組みとは異なるアプローチで、移行の実施に焦点を当て、COPのプロセスを補完し、交渉の流れを変える狙いがあった。
ところが日本政府が出席しなかったこともあってか、世界とは異なり、サンタマルタ会議の報道は日本では極めて限られている。本稿ではその概要と意義を振り返り今後を展望する。
会議の特徴と主なテーマ
この会議で特徴的であったのは、全会一致を前提とするCOPとは異なり、移行に前向きな国が自主的に集まり、実務的な課題を議論する「実施重視の政治プラットフォーム」として設計された点である。また会議には、政府代表だけでなく、学界、市民社会、先住民団体、企業など多様なステークホルダーが参加し、民主的で包摂的な議論が行われた。
会議での主要な議論は、①化石燃料依存経済の転換、②需給構造の改革(再エネ拡大・補助金見直しなど)、③国際協力と科学的支援体制の構築の三つの領域に焦点があてられた。
とりわけ化石燃料への依存を減らすため、依存を固定化し続けている政策の改革に取り組むこと、特に化石燃料補助金の改革がエネルギー安全保障を強化し、公的資源を解放し、よりクリーンなエネルギーシステムへのインセンティブとなることが強調された。
会議の主な成果
最も重要な成果は、参加国が化石燃料からの段階的移行に向けた国家ロードマップを策定する方針で一致したことである。これは、COP交渉では政治的対立により実現しなかった前進であり、移行の実施段階に踏み込んだ点で画期的である。
特にフランス政府は会議開催期間中の4月28日に主要国として初の「化石燃料完全廃止計画」を提示し、国際社会に強いインパクトを与えた。2030年までの脱石炭(2027年までに残る2つの石炭発電所閉鎖)、2045年までの脱石油、2050年までの脱天然ガスという計画である。
2番目の成果は、化石燃料補助金の見直しとカーボンプライシングの強化である。多くの国が、化石燃料補助金が移行を妨げている点を共有し、補助金の段階的廃止とカーボンプライシング(炭素価格)制度の強化の必要性で一致した。これにより、再エネ投資の促進や市場の歪みの是正が期待される。
3番目は、科学パネルの創設である。会議では、移行政策を科学的に支えるため、Science Panel for the Global Energy Transition(グローバルなエネルギー転換のための科学パネル(SPGET))が創設された。世界中の気候変動の専門家が集まったSPGETは、今後数年間、各国が段階的廃止目標を達成するために必要な具体的なタイムラインと行動計画の策定に科学的根拠に基づく支援を迅速に行うことが期待される。
サンタマルタ会議はプロセスの終わりではなく、新たな協力プラットフォームの始まりでもある。今回の会議のモーメンタムを維持し発展させるため、29日の閉会式では、第2回会議が2027年2月にツバルとアイルランドの共催で開催されることが発表され、第2回に向けた3つの作業部会、①化石燃料の生産や輸出に焦点を当てた各国の脱化石燃料ロードマップのデザイン、②マクロ経済依存や金融制度の改革、③化石燃料生産者とその消費者の連携と化石燃料フリーな貿易システムの構築、を設置することが発表された。このことによって継続的な国際協力の枠組みが確立された。
今後の課題と日本への示唆
今回の会議には、日本、米国、中国、インドなど、世界の排出量の大部分を占める国が参加していない。特に日本は「招待されていない」と説明しつつ、エネルギー安全保障を理由に慎重姿勢を維持している。これらの国の不参加は、世界全体の移行スピードを鈍らせる可能性が高い。
また、多くの国が財政の化石燃料依存、雇用構造の固定化、社会的・政治的抵抗 といった「ロックイン構造」があり、化石燃料依存経済の構造転換の困難さを抱えている。特に産油国では、国家財政の大部分が化石燃料収入に依存しており、移行は政治的に困難な面がある。
さらに、送電網の強化、蓄電技術の普及、再エネの安定供給など、需給転換に必要なインフラ整備が多くの国で遅れている。これらの整備が進まなければ、移行の実効性は確保できない。
そして地政学リスクとエネルギー安全保障の両立が大きな課題であり、中東情勢の不安定化や燃料価格の乱高下は、化石燃料依存のリスクを高める一方、短期的には化石燃料生産を維持する圧力も強めているので、長期的な移行を進めつつ短期的には安定供給を確保するという二重の課題が存在する。
サンタマルタ会議は、化石燃料からの移行を実施段階に進めるための初の国際的枠組みとして、歴史的意義を持つ。特に、国家ロードマップ策定の合意や補助金改革の議論、科学パネルの創設など、COPでは実現しにくい具体的成果が得られた点は高く評価できる。一方で、大排出国の不参加や経済構造転換の困難さ、インフラ整備の遅れなど課題は大きく、移行の実現には長期的かつ国際協調による取り組みが不可欠である。今後は、第2回会議に向けて、より多くの国を巻き込みつつ、実効性のある政策設計と国際協力の深化が求められる。
今回の会議では、参加国の間では化石燃料から再生可能エネルギーへの公正な移行こそが気候変動対策としてもエネルギー安全保障としても重要であるという認識が共有された。日本政府は、ガソリン補助金の継続、石炭火力の抑制策の解除など世界の潮流とは逆行する方針を続けている。化石燃料依存構造を継続することは気候変動を悪化させるばかりではなく、富の流出と国力低下を招くことにもなる。日本が世界的な脱化石燃料の議論に背を向け関与しないことは、国際的なルール作りから取り残され、エネルギー安全保障と外交にもマイナスの影響が生じることになる。国内で省エネと再エネの迅速な拡大により脱化石燃料移行を進めるとともに、国際的な議論にも積極的に関与することが求められているのである。
(本稿は、月刊誌『グローバルネット』2026年7月号(428号)に掲載された内容に一部加筆したものである。)
(参考)
化石燃料からの移行に関する第1回国際会議 https://transitionawayconference.com/
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