森林の保全と再生は持続可能な社会への投資:FAO『世界森林白書2026』を読む
森林は、気候変動の緩和、生物多様性の保全、水循環の維持、土壌の保全など、地球環境を支える重要な基盤です。また、木材や食料を供給し、多くの人々の暮らしや地域経済を支えています。しかし現在、世界の森林は、面積の減少と生態系の劣化という二重の危機に直面しています。 国連食糧農業機関(FAO)の世界森林資源評価などによると、世界の森林面積は約41億4000万㌶で、陸地面積の約32%を占めています。一方、1990年から2025年までに約4億8900万㌶の森林が失われ、さらに約4億6000万㌶の森林地が劣化しているとされています。森林減少や劣化の背景には、農地の拡大、都市化、インフラ開発、資源需要の増大などがあり、近年は気候変動による森林火災や干ばつ、病害虫の被害も深刻化しています。 森林の劣化は、炭素の吸収・貯蔵能力を低下させ、気候変動をさらに進めるおそれがあります。生態系が供給できる資源やサービスと、社会が必要とするものとの隔たりも拡大しています。森林保全は、環境問題にとどまらず、食料安全保障や地域社会、経済の持続可能性にも関わる課題なのです。
「森林・景観再生」という新たなアプローチ
2026年9月28日に公表されたFAOの『世界森林白書2026(The State of the World’s Forests 2026)』(※) が重視するのは、森林・景観再生(Forest and Landscape Restoration:FLR)です。これは、単に木を植えるのではなく、森林、農地、牧草地、湿地などを含む地域全体を対象に、生態系の機能を回復させ、人々の暮らしの向上にもつなげる取り組みです。 森林を、水、土壌、生物多様性、農業、人々の生活とのつながりの中で捉え、土地利用を総合的に管理することが基本となります。例えば、樹木と農作物を組み合わせるアグロフォレストリーは、土壌侵食を抑え、水や養分の循環を改善するとともに、農業の生産性や気候変動への対応力を高めます。 ただし、植林面積を増やすこと自体が目的ではありません。自然林の保全を優先し、地域の生態系に適した樹種や再生方法を選ぶ必要があります。重要なのは、植林の本数や面積だけでなく、生物多様性や生態系の機能が回復し、その状態が長期的に維持されることです。
森林・景観再生を進めるための4つの条件
森林・景観再生を広範囲に進めるには、4つの条件を一体的に整える必要があります。 第一は、地域住民や先住民族の権利を保障し、計画づくりから実施まで主体的に参加できる仕組みを整えることです。保全の負担を地域に押しつけず、成果や利益を公平に分かち合うことが、取り組みの継続につながります。 第二は、森林だけでなく、農地、河川、集落などを含めた地域全体の土地利用計画です。生態系のつながりや地域産業との関係を考慮し、景観全体としての効果を高めることが重要です。 第三は、持続可能な資金と事業モデルの確立です。公的資金や国際協力に加え、民間投資などを組み合わせ、長期的な管理を支える仕組みを整える必要があります。木材や非木材林産物の持続可能な生産・流通を促進し、地域に利益が還元されることも欠かせません。 第四は、政策と法制度の整合性です。森林政策に加え、農業、貿易、産業、金融などの政策を調整し、森林破壊を促す制度や補助金を見直すことが求められます。 さらに、衛星観測などを活用し、再生面積だけでなく、生物種の回復、生態系の健全性、地域住民の所得や雇用なども評価する仕組みが必要です。
日本の森林政策と国際的役割
日本は国土の約3分の2を森林が占める森林国です。しかし、戦後に造成された人工林の成熟が進む一方、林業の担い手不足や採算性の低下、管理が行き届かない森林の増加が課題となっています。里山や中山間地域でも、人口減少や農地の荒廃が進んでいます。 こうした課題に対応するには、森林だけでなく、農地、集落、河川などを一体的に管理する視点が必要です。流域や地域の生態系を単位として計画を立てれば、土砂災害の防止、水源の保全、生物多様性の回復、地域産業の振興を結びつけることができます。 また、日本の里山、混交林、果樹園、茶畑などには、自然環境と生産活動を組み合わせてきた知恵があります。こうした伝統的な土地利用を現代の科学的知見と結びつけ、環境保全と地域文化の継承に生かすことが重要です。そのためには、住民、林業者、企業、NPO、自治体などの協働と、長期的な管理を支える制度・財政基盤が欠かせません。 国際的にも、日本には重要な役割があります。木材、紙製品、農産物などの輸入に際して、森林破壊を招かない責任ある調達を進めるとともに、輸入先の森林再生を支援することが求められます。さらに、森林計測、リモートセンシング、流域管理などの技術を生かし、アジア太平洋地域での人材育成や共同研究、資金協力を進めることも期待されます。 『世界森林白書2026』の重要なメッセージは、森林・景観再生を環境政策の一分野にとどめず、農業、食料、地域経済、気候変動対策、生物多様性保全を支える戦略的な投資として位置づけることです。森林の再生には時間が掛かり、植林などの初期事業だけでは成果を維持できません。地域住民の参加、継続的な資金、適切な管理、科学的な評価を一体的に進める必要があります。 日本にとっては、里山、人工林、都市近郊林を含む地域全体の管理を進めるとともに、責任あるサプライチェーンや国際協力を通じて世界の森林再生を支えることが重要です。森林を単なる木材資源や炭素吸収源としてではなく、生物多様性、水循環、地域文化、人々の暮らしを支える基盤として捉え直すことが、持続可能な社会への転換につながります。
(※)FAO(2026), “THE STATE OF THE WORLD’S FORESTS 2026”https://doi.org/10.4060/ce0633en
(本稿は、ビジネスWEBサイト『時局』(2026年11月2日更新)連載「地球沸騰時代の環境考」の「森林の保全と再生は 持続可能な社会への投資 」(森林の保全と再生は持続可能な社会への投資 - 地球沸騰時代の環境考 - 時局)に加筆したものです)。
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