気候と人類の未来を破壊する戦争: 武器よさらば

戦争により多くの人命が失われ、環境が破壊され続けている。
 戦争は最大の環境破壊であり、軍事活動により生態系は破壊され、有害物質は拡散される。土壌や水は汚染され、莫大な温室効果ガスが排出される。貴重な自然や生態系も一瞬で根絶やしにされる。「戦争を止めること」は、人命を守るだけでなく、地球の気候システムをこれ以上壊さないための、極めて重要な気候政策である。
松下和夫 2026.05.26
誰でも

戦争により多くの人命が失われ、環境が破壊され続けている

米国とイスラエルによるイランへの大規模軍事攻撃後、停戦協議は進まずホルムズ海峡の封鎖が続く一方、パレスチナのガザ地区では7万を超える人々が犠牲となり、ウクライナでも侵攻から4年経過後も戦争終結の見通しは立たない。

 戦争は最大の環境破壊である。軍事活動により生態系は破壊され、有害物質は拡散される。土壌や水は汚染され、莫大な温室効果ガスが排出される。貴重な自然や生態系も一瞬で根絶やしにされる。

ウクライナ、ガザ、イランの惨状

2022年2月のロシアのウクライナ侵攻後4年間で、戦争関連温室効果ガス排出が3億1100万トンCO₂e(二酸化炭素換算)あったと推計されている。これはフランスの年間排出量に匹敵する。

排出の主な要因には、①軍事活動そのもの(戦車・戦闘機・軍用車両の燃料消費、砲撃・爆撃)、②インフラ破壊(ガスパイプライン、発電所、工場、燃料貯蔵施設への攻撃による火災・漏洩)、③火災(砲撃やミサイルを引き金とした大規模な森林火災など)、④復興に要するカーボンコスト(破壊された都市・インフラを再建するためのセメント・鉄鋼などの大量使用)、があげられる。

パレスチナのガザ地区の面積は約365平方キロメートルで、東京都の約6割の面積しかない。この狭いガザでの15カ月の戦闘に伴う直接的軍事活動だけで、約190万トンCO₂e 排出が生じたと推計されている。これは36カ国の年間排出量を上回る規模だ。今後の戦後復興まで含めると、排出量は3,220万トンCO₂e以上に達し、世界の100カ国以上の年間排出量を上回る。

環境や健康への長期影響も深刻で、破壊された建物からアスベスト、重金属、微小粒子などの瓦礫や有害物質が大気・土壌・地下水に拡散し、インフラが崩壊し電力網や水処理施設が破壊されたことにより、ディーゼル発電機や汚染された水源への依存が高まり、健康被害と汚染物質排出が同時に悪化する。ガザのような狭い地域で、高密度の都市空間を徹底的に破壊しつくす戦争は、まさにエコサイドと称すべきで、面積に比し極めて大きな気候・環境破壊を生んでいる。

一方、2026年2月28日以来の米・イスラエルのイランへの軍事攻撃による環境・気候変動への影響については、直接評価できるデータは乏しいが、攻撃対象や地域特性から、重大な環境リスクが生じている可能性が高い。

 米・イスラエルはイランのガス田や重工業施設を攻撃し、イラン側も湾岸諸国の石油施設を攻撃対象にしている。想定される影響は、原油・ガス漏出による土壌・地下水汚染、火災による大気汚染、海洋汚染(ホルムズ海峡周辺)などである。

 さらに、弾道ミサイル製造施設、指揮統制拠点、重工業施設などが攻撃されているため、化学物質流出、有害金属・燃焼残渣拡散、都市部での瓦礫・アスベスト・微粒子の大量発生、が起きている可能性がある。

気候変動への影響としては、① 軍事攻撃による火災・爆発による大量のCO₂・ブラックカーボンの放出、特に石油施設の火災は、通常の産業火災よりも排出量が大きく、局所的温暖化寄与や大気汚染を引き起こす。 ② 世界のエネルギー市場への影響としては、ホルムズ海峡の封鎖により、原油・LNG供給が大幅に制限され価格が急騰し、これにより化石燃料依存国が代替供給を求め、より炭素集約的な資源(石炭など)に一時的に回帰するリスクがある。他方、エネルギー安全保障を理由に再エネ投資が加速する可能性という相反する影響が生じ得る。 ③ 地域のインフラ破壊による長期的影響として、工業施設・エネルギー施設の破壊は、復旧のための大量の資材・エネルギー消費を伴い、長期的なCO₂排出増加につながる。

今後何が求められるか

個別戦争のみでなく、現在の「軍事セクター全体」が巨大な排出源である。世界の軍事活動は、地球全体の温室効果ガス排出の約5.5%を占めると推計されている。これは航空業界や海運業界に匹敵する。ところがパリ協定では、各国に軍事排出の報告義務がなく、統計上「見えない排出」となっている。

今後、世界は緊急に軍事排出を気候対策の中心に据えるべきである。戦争を防ぐことは排出を防ぎ、気候の崩壊からコミュニティを守り生態系を保全する。

具体的には以下のような提案が考えられる。

  • 軍事排出の「見える化」と報告義務化:パリ協定に、軍事活動・戦争由来排出の報告を組み込み、戦争時の排出を「紛争関連排出」として独立カテゴリー化し、IPCC報告や各国のNDC(国別貢献)に反映させる。

  • 環境・気候損害の賠償メカニズムの確立:ウクライナは、戦争由来排出に対してロシアに「気候損害賠償」を求める方針を示している。これを先例とし、戦争による環境・気候損害を国際司法の正式な対象とし、「環境戦争犯罪」の概念を強化する。

  • 安全保障の再定義:「安全保障=軍拡」から「気候安全保障」へ、すなわち軍事力強化だけでなく、気候変動による食料・水・移住の不安定化を抑えること自体を「安全保障」と再定義し、紛争予防・平和構築を、気候政策(適応・緩和)と一体で設計する。さらに軍の脱炭素化と透明化を進め、軍事基地の再エネ化、燃料効率の改善など、軍事セクターの脱炭素を義務とする。

  • 「グリーン復興」を前提に:ウクライナやガザの復興を、化石燃料依存のインフラ再建ではなく、再エネ・省エネ・分散型エネルギーを軸にした「グリーン復興」とする。また、土壌・水・空気の汚染状況を長期的にモニタリングし、住民の健康影響(呼吸器疾患、がん、メンタルヘルスなど)と結びつけ評価する。

  • 「反戦」と「気候正義」の一体的取り組み:戦争反対を、「人道的」観点だけでなく、「気候正義」「世代間正義」の観点からも位置づける。また、歯止めのない軍事費の拡大を抑制し、その財源を気候変動対策・適応支援・紛争予防に振り向ける。

戦争は「気候と人類の未来」を破壊する

戦争は「気候と人類の未来」を破壊する戦争の環境影響から見えてくるのは、戦争は「気候と人類の未来」を破壊することである。すなわち、①戦争は、短期間に「国家レベル」の温室効果ガス排出を生み、②軍事セクター全体は、世界排出の約5.5%という巨大な「見えない排出源」であり、③気候変動は戦争を誘発し、戦争は気候危機を加速させるという悪循環が現実化している。「戦争を止めること」は、人命を守るだけでなく、地球の気候システムをこれ以上壊さないための、極めて重要な気候政策なのである。

(以上は「環境文明21」会報(2026年5月22日公開)を転載したものです。)

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