イラン戦争によるエネルギー危機に対する
各国の対策を比較する

各国がイラン戦争によるエネルギー危機に直面する中、IEAは省エネと行動変容を軸にした対策を提示し、多くの国が在宅勤務や速度制限などの需要抑制策を導入しています。一方、日本はガソリン補助金に依存し、化石燃料依存の固定化が懸念されます。危機克服には、省エネ強化と再エネ拡大への転換が急務です。
松下和夫 2026.06.01
誰でも

アメリカ・イスラエルのイラン攻撃に伴うエネルギー危機に際し、IEA(国際エネルギー機関)は3月20日には「Sheltering from Oil Shocks(石油ショックからの避難)」というレポートを公表し、政府・企業・家庭がただちに実施できる措置を提示しました。 

IEAの報告書は、道路輸送、航空、調理、産業の4領域にまたがる10の需要側の対策を提示。現実的な需要抑制オプションとして、在宅勤務の奨励、高速道路での速度抑制、公共交通の促進、都市部の自家用車アクセス制限、相乗りとエコドライブ、商用車・配送の効率化、輸送分野でのLPG利用転換、業務フライト削減、現代的調理手段への切替、石化原料の柔軟化と工場の短期効率化を挙げています。 

IEAでは「需要側(節約)こそ最大の戦略備蓄である」と強調。そして3月末、約80ヵ国の政策措置を体系的に集約する「2026年エネルギー危機政策対応トラッカー」を公開しました。これによると各国は様々な省エネ対策などを実施しています。 一方、日本はガソリン補助金など“価格抑制”に偏っており、これは巨額の財政負担を伴い、市場をゆがめ石油依存を固定化し、危機の根本解決につながりません。日本は石油備蓄を厚く持っているので、短期的リスクとしては、量の不足そのものより、輸入価格上昇と、それが企業収益・家計負担・物流費・物価へ伝播することにあります。今後のエネルギー安全保障の観点からは、省エネの強化・再エネ拡大・化石燃料依存の縮小が求められます。 

IEAがまとめた各国の対応を見ると、需要抑制策と家計支援策の両面で多様な政策が取られています。 特に、省エネ・行動変容を促す政策が広く導入されている点が特徴です。」

⑴需要抑制策(短期的な危機対応) IEAの追跡によれば、以下のような措置が多くの国で実施されました。•在宅勤務の奨励・義務化(11ヵ国) → 通勤による石油消費を削減。•エアコン温度制限(5ヵ国)•公務員の移動制限(11ヵ国)•学校の休校・時短(5ヵ国)•消費者への需要抑制要請(20ヵ国)•車両使用制限・速度制限引き下げ・公共交通促進(18ヵ国) 

例えば韓国では公務員の週2日運転禁止、企業への使用量削減要請など、強制力のある省エネ策が導入されました。

⑵家計支援策(価格高騰への対応)•燃料価格上限設定(14ヵ国)•燃料補助金(9ヵ国)•エネルギー税の軽減(27ヵ国) 多くの国が税軽減や低所得層支援を組み合わせ、補助金依存を避けつつ負担軽減を図っています。それに対して日本はガソリン価格を1㍑170円程度に抑えるため、元売り企業への補助金を中心に対応。IEAが推奨するような省エネの義務化・行動変容策はほとんど導入されていません。日本の政策は化石燃料依存を強める方向のものが多く、危機対応としては不十分。下の表は各国と日本の対策を比較したものです。

 IEAや各国の動向から、日本が取るべきエネルギー危機対策の方向性は明らかです。

⑴省エネ・需要抑制の本格導入 IEAでは省エネが「第一の燃料」との位置づけ。日本でも、在宅勤務の奨励、公共交通利用促進、空調温度の適正化、企業へのエネルギー使用削減要請が求められる。

⑵再生可能エネルギーの急速拡大 再エネは初期費用が低く、迅速に普及可能で、危機に強い。特に日本はホルムズ海峡依存度が90%と極めて高く、再エネ拡大は安全保障上も必須。

⑶化石燃料補助金の段階的縮小 IEAやG7は非効率な化石燃料補助金の廃止を求めている。補助金は短期的には価格抑制効果はあるものの、長期的には化石燃料依存を固定化し、財政負担も大きい。

⑷低所得層への直接支援への転換 価格全体を下げるのではなく、 脆弱層へのターゲット支援に切り替えることで、財政効率と公平性が高まる。

⑸エネルギー安全保障を軸にした産業政策 蓄電池・送電網への投資、省エネ家電・断熱改修の普及、EV・ヒートポンプの導入支援など。

世界各国は、エネルギー危機を単なる価格高騰ではなく、化石燃料依存の構造的リスクとして捉え、省エネ・再エネ・行動変容を中心とした政策を展開しています。

一方、日本はガソリン補助金に偏り、危機の根本原因である化石燃料依存の解消に踏み込めていません。 日本が今後取るべき道は、「省エネ強化X再エネ拡大X補助金改革」 という国際標準のアプローチであり、これこそがエネルギー危機に強い社会をつくる鍵となります。

(以上は、ビジネスWEBサイト『時局』(2026年6月1日更新)の連載「地球沸騰時代の環境考」に掲載されたものです。イラン戦争によるエネルギー危機に対する各国の対策を比較する - 地球沸騰時代の環境考 - 時局

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